日本経済新聞社による当社会長マグナス・ブランベルクのインタビュー

2023年02月13日

ベースロードグループの最大投資家で会長でもあるマグナス・ブランベルクは2022年12月、日本経済新聞社のインタビューに答えました。

インタビュー概要

  • 地熱は送電網の調整弁として、早期拡大しなければならない
  • 米国での動きは日本でもいずれ起こる
  • エネルギー問題が日本での地熱拡大を後押しするだろう
  • バイナリー発電はフラッシュよりリスクが低い。温泉事業者の収益源に貢献
  • 海外サプライヤーの参入がコスト競争を生み出し、コスト低減につながる。FITがなくてもコスト競争力がある構造にするべき
  • 地熱リスクを理解する投資家が必要
  • 日本で地熱拡大するには日本の投資家が必要。グローバル投資家とローカル投資家が知見を結集して市場拡大することが極めて重要
  • ベースロードパワージャパンを通じてバイナリー発電市場を拡大するために、資金を提供し、事業を成長させ、日本の投資家と協業することが目標

以下は全内容となります。

なぜ再エネに投資するのですか。原点となるものは?

  • 大学でエネルギー工学を専攻。電気と熱は日常生活の一部であり、国の安全保障の一環
  • 発電によるCO2排出の全産業に占める割合は30%。よってエネルギーシスムの変革は喫緊の課題だ
  • 太陽光や風力は急速に成長している。2022年の再エネ電源への投資の割合は太陽光が50%、風力が40%で、地熱はまだ1%以下だ。だから地熱拡大を加速化しなければならない
  • 太陽光や風力だけでエネルギー需要を100%満たせない。米カリフォルニアでは送電網の負荷抑制により、太陽光や風力発電所をこれ以上増やすことが困難。このため、カリフォルニアは2026年までに合計1GWの地熱発電導入を決めた。カリフォルニアだけでも日本全体の導入量0.65GWよりも多くなる計算だ
  • 地球の容積の95%以上が500度以上の温度。この熱を取り出すことができれば、社会を永続的に暖められる。地熱にはそれほどのポテンシャルがある。ゆで卵を想像してほしい。地球表面の薄い層の部分に私たちは暮らしている。下層に多くの熱が埋蔵されている。地球の中心部は太陽の表面と同じぐらい熱い。熱を活用して社会のために電気を作ることを、ベースロードパワーを通じて実現したい

地熱は火力に変わるポテンシャルがあると思いますか?

  • ある。(当社はやっていないが)深部掘削をする企業がある。化石燃料でなく深部から取り出した蒸気を発電に使うことはすばらしい

地熱は1%とわずかだがその理由は何ですか?

  • 太陽光や風力よりも、地下の状況を理解しないといけない分、開発が難しい
  • 地熱に対する認知が他の再エネ電源に比べてこれまで高くなかった。しかし変化の兆しがある

それが投資を難しくしているのでしょうか?

  • そうだ。しかし変わりつつある
  • 石油ガス会社は化石燃料からの転換が必要な一方で、石油ガス用の掘削をしている。石油ガス用井戸が2021年に50,000本以上掘削された一方で、地熱用は1000本程度だった。石油ガス会社が地熱に転換すれば、状況は変わっていく。地熱発電は大成長を遂げると見ている
  • だから我々はベースロードパワーを通じて地熱拡大に取り組んでいる

石油ガス用井戸の掘削と地熱では技術的に同じですか?

  • 似ている
  • 技術向上に数年は要するだろうが、すでに石油ガス用掘削会社が地熱用掘削を始めている

地熱掘削するのはどこの国の企業が多いですか?

  • 米国だ。西海岸では地熱業界で多くのことが起こっている
  • (前述のように)太陽光や風力はすでに多くあって、送電網の抑制にベースロード電源が必要。同時に化石燃料以外への投資を模索する石油ガス会社が多く存在する。たとえば当社のパートナーである石油ガス大手シェブロンや、石油ガス会社向け掘削・関連サービス大手Baker Hughes (BH)

1GWに到達する可能性はありますか?

  • ある。地熱のリーディング企業オーマット社がいる。同社の公表では、数百万MWの発電所を建設するという
  • カリフォルニアと同様の動きが、日本や台湾など地熱ポテンシャルがある環太平洋火山地帯の国でも起こるだろう

カリフォルニア同様、日本や台湾でも送電網問題が地熱への転換を牽引していくのでしょうか。

  • エネルギー安全保障問題が転換を促すだろう。日本や台湾もエネルギーの大半を輸入しているが、本当は国産エネルギーで発電したい
  • 日本の地熱ポテンシャルは世界第3位23GWであるにも関わらず、導入量はわずか0.65GWだ。1GWは原子力発電所1基分に相当する

日本でもエネルギー価格が高騰し、電力会社は黒字転換のためにも国産エネルギーへの転換を迫られています。ロシア・ウクライナなどの社会情勢が再エネへの投資拡大を促していると思いますか?

  • そうだ。欧州では再エネに投資をしている一方で、それだけでは需要を満たせないので化石燃料を輸入している。再エネによるエネルギー自給率を高めなければならない

日本では地熱ポテンシャルがあるが、温泉事業者の懸念や国立公園などの課題があって開発が思ったより進んでいません。他国でも同様の問題はありますか?

  • ベースロードパワーが日本で目指しているのは、比較的小規模の発電所を造ることだ。大きな土地を必要としないので国立公園の中にも造れる
  • 発電事業で温泉事業者の収入増に貢献したい。温泉利用者が減少しているので、発電事業ができれば温泉事業継続の可能性が出てくる。バイナリー発電が地域に融合すること、地域に利点があることを示していきたい
  • 地熱に対する認知の低さがどの国でも課題だ。一般的に、馴染みの薄いものは避けがちになるが、地域と連携することで、関わる人すべてに有効なソリューションを見つけていけるだろう

バイナリー発電に力をいれる理由は何ですか?

  • 小規模発電所の方がリスクは少ない。フラッシュ発電は大規模プロジェクトで開発コストがかかる。土地も多く必要
  • リスクに対するリターンが高い
  • 地域社会の強化に貢献できる
  • しかしバイナリー発電はまだ市場が成熟していない

社会がカーボンニュートラル(CN)を求める時間軸に対して、地熱拡大は追いつくと思いますか?

  • 追いつくにはフラッシュもバイナリーも必要。また太陽光や風力だけなく原子力発電も必要。すべて化石フリーだ
  • 化石燃料から転換すれば、電気需要をすべてこうした電源で賄わないといけない。必要量をすべて送電網に流すのもチャレンジだ

日本での投資が海外と異なる部分は何ですか?

  • 日本の地熱マーケットは海外ほどダイナミックな動きがない。伝統的で、サプライチェーンの開発も進んでいない。掘削会社やEPCはいるもののほぼ国内企業だ。他国では、地熱のバリューチェーンに多くのグローバル企業がいる

地熱サプライヤーを増やしていくにはどうすれば良いですか?

  • 日本ではたとえば、年間掘削回数などの制約があり、掘削までに多くの時間を要する
  • 海外から掘削会社を呼び込めば競争原理が働き、掘削期間や価格を下げることができるだろう
  • バイナリー発電事業にも多くの海外事業会社を呼び込みたい。競争が生まれれば発電所の技術開発を促進できる

投資家だけでなく政府からの援助も必要です。米国では政府援助はありますか?

  • 当社が参入しているマーケットでは日本と台湾にFIT制度がある。15年保証でコストや収益が見通せる。FITは開発促進に重要な制度
  • 米国はクリーンエネルギー関連事業者に対する税控除があるが、FITはない。だからこそコスト競争力を高めないといけない
  • アイスランドも同様FITがないので、電気購入者と直接交渉する必要がある。発電と熱供給による収益性を示さないといけない
  • アイスランドや米国では電気料金がとても安い。日本でも、市場の拡大、コスト競争力を上げて、安くしないといけない

地熱が収益の成り立つビジネスモデルとして海外で証明できたとして、それが日本にもあてはまりますか?

  • コストが大きく違う。掘削、EPC、発電機輸入コストがとても高い。コスト競争力により、価格を低減しないといけない
  • 地熱発電事業会社は造り方を学ぶ必要がある。造り方を学ぶことで市場が成熟すれば、コストは下がる
  • 日本はコスト構造がまだ高いので、初期投資とFITの恩恵を受けつつ、徐々にコスト低減してくことが必要だ

グルスポング社(ブランベルクが経営する投資会社)が石油メジャーなどとの協業で得られる知見はありますか?

  • 我々投資家は地熱拡大というビジョンを共有している。彼らはビジョン達成のためにリスクが伴うことを理解している
  • ブレークスルーエナジーベンチャーは起業・事業拡大、SDCLは持続可能なプロジェクト推進に伴うリスクを理解している。BHやシェブロンはエネルギー関連プロジェクトに伴うリスクを理解している
  • 我々投資家はそれぞれのこうした強みを結集して、ビジョンを達成していく

具体的にどんなリスクを理解していますか? 

  • 不確実性がたくさんあるなかでの投資判断リスク。前例がないものに投資するリスク。必ずしも成功しないということを受容しなければならない。再挑戦すればコストがさらにかかる
  • 掘削リスク。十分な熱源や噴気を求めて複数の井戸を掘削する。複数の井戸を掘削すればそのうちのいくつかでうまくいかなくでもリスクは低減できる。ただし、複数の井戸を掘削するコストが必要だから、投資家は積極投資が必要

日本で地熱を発展させるには、日本企業が海外プロジェクト参画で得た知見を国内で活用する必要がありますか?

  • そうだ
  • また日本の投資家も必要だ。米国ではシェブロンなど米国の投資家がいるように、日本では日本の投資家が必要。彼らは独自のネットワーク、信用力、事業機会、ノウハウ、資金を持ち込む。日本の投資家と当社のような海外投資家が共に知見を持ち寄ることが極めて重要だ

日本市場に対するコミットメントをお聞かせください

  • ベースロードパワージャパンのように、地熱ポテンシャルが高い国で起業し、ローカル人材を採用し、我々投資家が十分な資金を提供し運営している。発電所の運転を開始すると同時に、パイプラインを積み上げている。そして日本の投資家を探すのが目標だ
  • 起業、事業成長、そしてベストな協業相手を見つける。これが当社の目標だ。ベースロードパワーを大きく成長させたい

2023年1月11日に日経GXに掲載された記事はこちらをご覧ください。

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